Mattermost〜OSSのチャットツール〜
最近では、テレワークや在宅勤務が普及する中、メールに置き換わるコミュニケーションツールが広く利用されるようになっています。ビジネスでは、Webブラウザやアプリから利用できるSlackやChatworkなどのビジネスチャットサービスを導入する企業が増えてきています。社内で利用できるチャットシステムを導入することで、社員同士のコミュニケーションを活性化することが可能です。ここでは、オンプレミス環境に構築できるOSSのチャットツールMattermostを紹介します。
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目次
ビジネスチャット導入のメリット
ビジネスチャットは、会社全体・部門・グループ内のコミュニケーションや、1対1のコミュニケーション等、様々な用途で利用することができます。メールより気軽に連絡が取れることはもちろん、過去のやり取りを参照したり、検索したりすることもできるようになっており、仕事を効率化することが期待できます。
しかし、Slackなどのインターネット上のビジネスチャットサービスを使用する場合、やり取りの履歴がサービス提供サイトに残ることになります。アクセスは制限されたユーザのみに絞ることはできますが、外部に機密情報や個人情報のデータを残すことが心配であったり、会社のポリシーに反したりすると、セキュリティ上、クラウドサービスで提供されているインターネットのシステムを利用することが難しいこともあります。
ビジネスチャットシステムを利用する場合、オンプレミス環境で自社専用のチャットシステムを構築することができれば、機密情報や個人情報が組織内に保存されるため、安全で便利にビジネスチャットを利用することが可能です。
Mattermostとは
Mattermost(マターモスト)とは、Mattermost社を中心として開発されたオープンソースソフトウェアのビジネスチャットツールです。社内でコミュニケーションをとるために1対1およびグループ間のメッセージ交換や、ワークフロー管理、プロジェクトのタスク管理を行うことができます。WindowsやLinux、Macなどのデスクトップアプリから、iOSやAndroid用のアプリケーションもあるため、スマホやタブレットからの利用も可能です。
オンプレミス環境で利用可能
Mattermostは、オンプレミス型とクラウド型の2つの利用形態がリリースされており、自社のポリシーに合った利用形態を選択することが可能です。
- Mattermostセルフホスト
組織内の物理サーバやプライベートクラウドの仮想サーバ、パブリッククラウドの仮想サーバのオンプレミス環境でMattermostを提供する形態です。組織の専用システムを構築することができるため、セキュアなチャットシステムを構築することができます。
- Mattermostクラウド
SaaSとしてMattermostを使用する形態です。サインアップしてすぐに利用することができるので、簡単にMattermostを利用することができます。
自社のセキュリティ方針や運用マネジメントなどを考慮し、Mattermostの使い方の選択が可能になります。
Mattermostセルフホスト形態でも4つのプランがある
オンプレミス環境に構築することができるMattermostセルフホスト形態には、以下の4つのプランがあります。
- Mattermostスターター
小規模チーム向けのエディションです。Mattermostの基本的な機能を利用することができ、無料で利用することができます。プロフェッショナルプランまたはエンタープライズプランを購入し、ライセンスキーを登録することでグレードアップすることができます。
- Mattermostチームエディション
Mattermostチームエディションは、無料で使用できるオープンソースのプラットフォームです。MITライセンスの下で提供されています。Mattermostチームエディションの機能は、Mattermostスターターと同じですが、追加機能のロックを解除する機能がありません。
- Mattermostプロフェッショナル
Mattermostプロフェッショナルエディションでは、複数チームに渡るチャットシステムを提供するための機能を利用することができます。
- Mattermostエンタープライズ
Mattermostエンタープライズエディションでは、高度なパフォーマンス、セキュリティ、コンプライアンスを提供するための機能を利用することができます。
Mattermostの機能
Mattermostの機能を以下で解説します。
1対1のメッセージやグループでのチャットができる
Mattermostは、1対1のメッセージのやりとりはもちろん、グループでのメッセージのやり取りが可能です。グループでのメッセージは、登録されているユーザ全員に見える公開チャンネルや、参加している人しか見えない非公開チャンネルの設定も可能です。メッセージのやり取りの中でスレッドを立てて、前の会話内容を引用してトークすることや、メンション機能を利用して特定の人だけに返信することも可能になります。また、通知の設定で、メッセージが送信された際にポップアップを出すことも可能です。
部署ごとなどのチームを作成することができる
チームを作成して登録することができます。部署ごとなどでチームを作り、専用のビジネスチャットシステムを作成することができます。チームのメンバーだけで、トークやタスク管理を行うことができます。
プロジェクトのタスク管理ができる
かんばん方式でプロジェクトのタスク管理を行うことができます。ボードは、チャンネル毎に管理することができます。さらにタスクの一覧表示や進捗の管理を行うことが可能です。この機能は、現在コミュニティでプラグイン化されて追加することができます。
プレイブックの作成が可能
プレイブックとは、何度も繰り返して実行する手続きを、チェックリスト形式で実行することができるようにする仕組みです。指定したアクションがメッセージの中で確認されると、指定した名称のチャンネルが作成されます。その後チェックリストが表示され、チェックリストを確認しながらタスクを進めることができます。
多要素認証ができる
Mattermostは、システムへログインする際に、Google Authenticatorのワンタイムパスワードを利用した多要素認証を使用することができます。多要素認証を使用するためには、システムコンソールから多要素認証を有効に設定する必要があります。多要素認証を有効に設定すると、ユーザーのプロフィール設定ページで多要素認証を有効にできるようになり、セキュリティをより強化できます。
サイトの使用統計が確認できる
管理者は、システムコンソールでサイトの使用統計やチームの統計、サーバログを確認することが可能です。プラグインの設定や多要素認証の管理なども、システムコンソールから変更が可能になります。
社内外の人ともメッセージができる
プロフェッショナルエディションでは、ゲストアカウントの機能を利用することができます。ゲストアカウントは、組織外の人がチームやチャンネルに制限付きでアクセスすることができます。ゲストアカウントの機能を利用すれば、顧客との問題解決、委託先とのプロジェクト推進等、組織外の人とのコミュニケーションの活性化を図ることができます。
モバイルプッシュ通知が可能
モバイル端末へのプッシュ通知も可能です。モバイルプッシュ通知を行う場合、プッシュ通知用のサーバーを用意する必要があります。プロフェッショナル/エンタープライズエディションではMattermostが提供しているHPNS(Hosted Push Notification Service)を、チームエディションではTPNS(Test Push Notifications Service)を利用することができます。ただし、TPNSはテスト用として提供されているサービスであるため、本番環境で使用するようなSLAは提供されません。HPNSを使用したくない場合や、チームエディションでプッシュ通知を行いたい場合は、独自のプッシュ通知サーバーとしてMPNS(Mattermost Push Notification Service)を構築する必要があります。
Mattermostの注意点
さまざまな特徴があるMattermostですが、利用するには以下の注意点があります。
日本語の文字の表記がおかしい
Mattermostは、表示する言語を日本語に選択することができますが、表示箇所が見切れてしまっていたり日本語の翻訳がおかしい部分が見られます。またGoogle Chrome/Microsoft Edgeではボードのコメントを日本語で問題なく入力することができますが、Firefoxでは日本語で入力できないなどの課題もあります。
AD/LDAP連携やOpenID Connectは有料版しかできない
Active Directory(AD)/LDAPユーザーの同期はプロフェッショナルエディションを、AD/LDAPユーザー/グループ同期は、エンタープライズエディションを利用する必要があります。また、OpenID Connectを使用したSSOも、プロフェッショナルエディションを利用する必要があります。プロフェッショナルエディションでは、GitLab/Google Apps/Office 365等のOpenID Connectプロバイダに対応しています。デージーネットでは、有料版でしかできないLDAP連携やSSOの代替策もご提案しています。
大規模なシステムを構築したい場合も有料版しかできない
利用人数が多い場合や複数のチームを作成したい場合など、Mattermostを利用して大規模なシステムを構築する場合は、エンタープライズエディションを使う必要があります。エンタープライズエディションでは、冗長化したインフラストラクチャを使用して、ソフトウェア停止やハードウェア障害の際にサービスを継続できるHAクラスタを構成することができます。データベースのクラスタやレプリケーション機能と組み合わせれば、データベースの負荷分散を行うことができます。
Mattermostのチームエディションの性能についてデージーネットで調査した結果、CPU16コアのケースでは、1000〜2000ユーザ規模の環境を想定した場合でも、問題なくメッセージを送付できることを確認しています。詳しい性能検証結果はMattermost調査報告書をご確認ください。
その他のチャットツールとの違い
ビジネスで利用が可能なOSSのチャットツールには、Mattermostの他に、Rocket.ChatやZulipなどが存在します。以下で、それぞれのOSSのメリットをまとめました。
Mattermostのメリット
- チームを作成できる
部署ごとやプロジェクトごとにチームを作成し、独自のチャットシステムを作るなどの運用が可能です。
- マークダウン記法をサポートしている
マークダウン記法を利用して見出しや文字を強調でき、文章を見やすくすることができます。
Rocket.Chatのメリット
- OSS版でLDAP連携ができる
Rocket.Chatでは、LDAP連携をOSS版で利用できます。既にLDAPを利用している場合、コストを抑えながらユーザ管理を容易に行うことができます。
- システムを複数構築できる
Rocket.Chatは、クラスタ構成をOSS版で行うことができます。そのため、利用人数が多い場合でも、費用を抑えて止まらないシステムを構築できます。
なお、Rocket.Chatに関しては、オープンソース版のバージョン6以降は、以前と比較して処理性能が 大きく低下してしまいました。また、ユーザ数が多い場合や複数台構成ではいくつかの機能が制限されるようになっています。
Zulipのメリット
- トピック形式で会話を管理できる
Zulipは、チャットルームの中のトピック(話題)に応じて会話のグループを作成することができます。そのため、会話の整理や履歴の検索がしやすいのが特徴です。
- 大規模な組織でも利用可能
デージーネットがZulipの検証を行った結果、ユーザ数が1000人の環境下で瞬間的に100人がメッセージを送信した場合でも、問題なくメッセージをやり取りできることが確認できています。そのため、比較的大規模な組織でも利用可能です。
Mattermostと他のチャットツールのOSSとの間に、基本的な機能に大きな差はありませんが、Mattermostは、クラウド型とオンプレミス型を選択することができます。また、部署ごとに独自のチャットシステムを利用したい場合やマークダウン方式を利用したい場合はMattermostがおすすめです。
一方で、大規模な組織で利用したい場合や話題の管理をしたい場合はZulip、LDAP連携を無償で行いたい場合はRocket.Chatなど、用途や利用環境によって適したチャットツールも異なります。それぞれのチャットツールのメリットを比較することで、自社の利用方法に合わせて、チャットシステムを選択することをおすすめします。
デージーネットの取り組み
デージーネットでは、ビジネスチャットツールのサーバー構築・保守を行っています。デージーネットでは以前、LDAP連携やクラスタ構成をオープンソースソフトウェア版で行えるビジネスチャットツールのRocket.Chatをおすすめしていましたが、Rocket.Chatのバージョン6より機能の制限が追加されたことを受け、新たにZulipというOSSのチャットシステムについても調査を行いました。
今後は、Rocket.Chatの他に、ZulipやMattermostを比較検討し、お客様のご要望に合わせ最適なチャットシステムを提案していきます。
デージーネットで構築したシステムは、Open Smart Assistanceという保守サービスに加入することができます。OSSそのものではなく、運用中のシステムが適切に運用できることをサポートしています。 保守サービスでは、使い方から運用方法まで幅広い範囲でのQ&Aや、適正に運用できるようなセキュリティの情報提供、障害調査、回避を行い、安心して利用して頂けるよう管理者の業務をサポートします。MattermostのLinuxサーバーへのインストール方法や詳細な使い方等は、Mattermost調査報告書に記載しています。調査報告書は、無料でダウンロードが可能です。
情報の一覧
Mattermost調査報告書
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