Rocky Linux〜RHELのクローンOS〜
CentOSプロジェクトは2020年12月8日に、CentOS8のサポートを当初の予定の2029年5月から変更し、2021年12月末で終了することを発表しました。また同時にCentOSプロジェクトは、CentOS Streamと呼ばれるRHEL(Red Hat Enterprise Linux)の開発版に位置づけられるOSに注力していくことになりました。この影響のため、以前から多くのシステムやビジネスで利用されていたCentOSは、今後は実質的に利用し続けることが難しくなりました。
また代替となるCentOS Streamは、完全なRHELクローンではないことや、今回突然のサポート終了が行われた事実からCentOS Streamの利用は不安がある状況になりました。この流れを受けて、オラクル(Oracle)社が提供しているOracle Linuxなど新しいRHELクローンの開発プロジェクトが2021 年にいくつか発足しました。Rocky Linuxはその中のひとつです。ここでは、Rocky Linuxについて紹介します。
Rocky Linuxとは
Rocky Linuxとは、オープンソースのLinuxディストリビューションです。Rocky Linuxは、RHELのダウンストリームビルドであることやコミュニティ駆動型で開発されるOSであることを明確にしています。さらにRocky Linuxは、公式サイトでエンタープライズ環境での運用が堅実で安定性があることをユーザーに明言しています。Rocky Linuxは、CentOSの共同の開発者であるRocky McGaugh氏にちなんで名付けられました。Rocky Linuxの特徴を以下で紹介します。
Rocky Linuxの特徴
Rocky Linuxは、商用のLinuxディストリビューションである、RedHat Enterprise Linux 8のクローンとして開発されているため、RHELやCentOS/AlmaLinuxと変更点はなく、互換性を保って利用が可能です。RHELやCentOSの操作やコマンドに慣れているユーザであれば、問題なく使用することができます。
yumリポジトリでソフトウェアのアップデート情報の提供
Rocky Linuxは、yumリポジトリでソフトウェアのアップデート情報(updateinfo.xml) が提供されています。これによりyumコマンドで、パッケージ毎のセキュリティ情報を確認できたり、脆弱性のレベルによって選択的にセキュリティアップデートができるようになっています。問題の種別がバグなのか、セキュリティ上の問題なのかわかりやすく表示されています。またエラータサイトも公開されているため、セキュリティ情報が検索、確認しやすい状態になっています。
コミュニティ中心の発展
当初は、セキュリティ情報の提供やエラータサイトの公開が行われていませんでした。対抗であるAlmaLinuxでは公開されていたため、Rocky Linuxのコミュニティ内で情報提供に関する話し合いが行われました。当初は対応できるチームが無いため対応の見通しが立っていませんでしたが、そこからすぐに管理の体制を整えて、最近では、セキュリティ情報の追加提供を開始しました。このような動きを見る限り、Rokcy Linuxがコミュニティを中心としていることがわかります。
CentOS8からの移行が可能
Rocky Linux Projectは、CentOSからの移行を行うためのユーザ向けのツールを提供しています。この移行スクリプトを利用して、検証の際に本番の環境にCentOSのディストリビューションで提供されていないソフトウェア・カーネルモジュールもインストールさせた状態で検証を行いましたが、その点は技術的な問題もありませんでした。全てのソフトウェアや全ての構成、設計で全く問題が出ないとは言えませんが、一定の安定性があることは確認ができました。Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud(GCP)などのクラウドプラットフォームにサポートされています。
Rocky LinuxとAlmaLinuxの比較
Rocky Linuxと同様にCentOS8の代わりとなるOSとしてAlmaLinuxが存在します。AlmaLinuxはRocky Linuxよりも早く最初の正式リリースが行われ、現在も精力的にシェア拡大のための活動が行われています。Rocky Linuxについて検証した最新の情報と、AlmaLinuxの情報をまとめて比較すると次のようになります。
項目 | AlmaLinux | Rocky Linux |
---|---|---|
正式リリース日 | 2021年03月30日 | 2021年06月21日 |
スポンサー | CloudLinux .inc (他不明) |
Ctrl IQ (他7社) |
CentOS と比較したパッケージ提供速度 | 同等以上 | 同等以上 |
セキュリティ情報の提供 | 〇 | 〇 |
エラータサイト | 〇 | 〇 |
ミラーリポジトリ数 | 142サイト | 106サイト |
公式コンテナイメージの配布 | ○ | 〇 |
公式AWS イメージの配布 | ○ | 〇 |
公式Azure イメージの配布 | ○ | × |
ARM アーキテクチャ対応 | ○ | 〇 |
PowerPC 対応 | ○ | × |
CentOS8 からの移行 | 可能 | 可能 |
セキュアブート対応 | 対応済み | 対応済み |
FIPS(連邦情報処理規格)対応 | 対応済み | 対応済み |
表からAlmaLinuxの方が早く正式リリースされたこともあり、ミラーリポジトリやクラウド対応が早く行われていることがわかります。セキュアブートやFIPS(連邦情報処理規格)対応に関しては、現在2つのOSとも対応済みとなっています。
このような現在の違いに関しては、バージョンが上がり、更新されるという条件があれば徐々にRocky Linuxも対応すると考えられます。つまり機能面や設定の方法、利用可能な環境については差が無くなってくると考えられます。
その他のRHELクローンOS
ここでは、Rocky LinuxやAlmaLinux以外のRHELクローンOSを紹介します。
MIRACLE LINUX
MIRACLE LINUX(ミラクル・リナックス)とは、サイバートラスト社によって開発されているRHELクローンOSで、約20年前から開発が行われています。元々、利用に有償ライセンスが必要でしたが、CentOS8の終了をうけて、2021年10月リリースのMIRACLE LINUX 8.4から無償公開されました。MIRACLE LINUXも、Rocky Linuxと同じように完全なRHELクローンであるため、RHELやCentOSと、ほぼ同じ様に運用が可能です。CentOS8からの移行も移行スクリプトを利用することができます。
しかし、マイナーリリースのタイミングがRHELと異なるため、MIRACLE LINUXは、RHELの偶数のマイナーリリースにしか対応されません。そしてアップデートの対応まで、RHELでのリリース後、数日から1週間程度時間がかかっています。メリットとして、日本の会社が開発を行っているため、日本語の有償サポートが受けられます。国産のLinuxOSであることは、大きなメリットになります。
Red Hatの公開リポジトリ停止
2023年6月21日に、Red HatがRHEL等で利用しているOSSのソースコードを一般公開しているリポジトリを停止し、ソースコードの公開は契約者のみに限定すると発表しました。またサブスクリプションの規約にて、ソースコードの再頒布を禁止しました。RockyLinuxは、この発表を受けて新しいアップデートの方法を確立しました。クラウドサービスのRHELは、リポジトリが使用できるためそれを利用するということでした。今後は、RockyLinuxに搭載されたソフトウェアやパッケージの出自を明らかにするような情報を公開していく予定と発表しています。
デージーネットの取り組み
Rocky Linuxの動作検証をした結果、RHEL8/CentOS8と同じように利用できるOSであることがわかりました。またアップグレード速度もCentOSと同等以上であり、セキュリティ情報の提供も行われています。しかし、RHELの公開リポジトリの停止発表により、リリースの遅れや一対一のバイナリ互換が維持できない可能性もあります。RHELクローンOSは、クローンではなくRHEL系の別のOSと捉えた方が良い可能性もあります。
デージーネットでは、LinuxOSを利用してサーバー構築をしています。LinuxOSは、安定して開発・プロジェクト活動の継続や開催が行われていくかが焦点になると考えられるため、今後の方針や動向にも注意していきます。詳しい情報は、Rocky Linux調査報告書の記事にも掲載されています。
また、2023年デージーネットでは、Rocky Linux9とCentOS8の代替OSと言われているAlmaLinux9についての書籍を出版しました。書籍には、Rocky Linux9とAlmaLinux9インストール手順やサーバの管理方法が記載されています。この本では、クラウド環境のネットワーク接続やサーバ構築もフォローしているため、これを参考にLinuxサーバエンジニアに必要な知識と技術を習得することができます。
関連情報
RockyLinux調査報告書
Rocky Linuxは、CentOS8のサポート終了に伴って開発が開始されたOS です。本書は、Red Hat Enterpirse Linux 8 のクローンOS「Rocky Linux 8」の調査報告書です。調査報告書は簡単な項目を登録すれば無料でダウンロードが可能です。
CentOSの代替えOS〜AlmaLinux〜
CentOS8のサポートが2021年末で終了するとアナウンスされ、これを受け新しいRHELクローンの開発プロジェクトがいくつか発足しました。AlmaLinuxはその中の1つで、他のプロジェクトより一足早く、2021年3月30日に正式版がリリースされました。このページではAlmaLinuxについての詳細を解説します。
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